限られた予算でもできる!データ活用で行政コストを削減する実践ガイド
なぜ今、自治体でデータ活用による行政コスト削減が必要なのか
少子高齢化による税収の減少や社会保障費の増加など、多くの自治体は厳しい財政状況に直面しています。住民ニーズは多様化し、行政サービスへの期待は高まる一方ですが、限られた予算と人員の中で、いかに効率的かつ効果的に行政運営を行うかが喫緊の課題となっています。
こうした状況において、行政コストの削減は重要な取り組みの一つです。そして、勘や経験に頼るだけでなく、客観的なデータに基づいて現状を把握し、課題を特定し、効果を検証しながら改善を進める「データ活用」が、コスト削減を実現するための強力な武器となります。
しかし、「データ活用と言われても、専門知識も予算もない」「何から手をつけていいか分からない」と感じている自治体職員の方も少なくないでしょう。この記事では、そうした方々に向けて、データ活用によって行政コストを削減した事例や、限られたリソースでも始められる具体的なステップをご紹介します。
行政コスト削減に向けたデータ活用の基本的な考え方
データ活用によって行政コストを削減するためには、以下のステップを踏むことが一般的です。
- 現状把握と「見える化」: どのような業務に、どの程度のコスト(時間、人員、費用)がかかっているのかをデータで正確に把握し、「見える化」します。
- 課題特定: 見える化されたデータから、非効率な部分や無駄が発生している箇所を特定します。例えば、特定の申請手続きに時間がかかりすぎている、特定の公共施設の維持管理費が突出している、といった課題を見つけ出します。
- 改善策の立案と実行: 特定された課題に対して、データに基づいた具体的な改善策を立案し、実行します。
- 効果測定と検証: 改善策の実行後に、どれだけコストが削減されたか、効率が向上したかをデータで測定し、効果を検証します。効果が不十分であれば、再度データから原因を探り、改善策を見直します。
このサイクルを繰り返すことで、継続的な行政運営の最適化とコスト削減を目指します。
データ活用による行政コスト削減事例
実際にデータ活用によって行政コストを削減した自治体の事例をいくつかご紹介します。これらの事例は、必ずしも高度な専門知識や多額の予算を必要とするものばかりではありません。
事例1:公共施設の利用状況データ分析による維持管理費の最適化
ある自治体では、保有する公共施設の維持管理費が財政を圧迫していました。そこで、各施設の過去数年分の利用実績データ、修繕履歴データ、エネルギー使用量データなどを収集・分析しました。
- 分析結果: 特定の施設で稼働率が極めて低いにも関わらず、他の施設と同程度の維持管理費がかかっていることや、利用頻度に対してエネルギー消費量が過剰な施設があることが判明しました。
- 改善策: 利用状況が極めて低い施設については統廃合や複合施設化を検討したり、エネルギー消費が非効率な施設には省エネ改修を優先的に実施したりしました。
- 効果: 分析結果に基づいた施設再配置や効率化により、年間数千万円の維持管理費削減に繋がりました。
この事例では、既に自治体内に存在する既存のデータ(予約システムや電力会社の請求データなど)を活用することが第一歩となります。
事例2:窓口業務・申請手続きのデータ分析による効率化
多くの自治体で、住民票の発行や各種申請手続きなどの窓口業務にかかる時間や人員が課題となっています。ある自治体では、窓口ごとの受付件数、待ち時間、手続きの種類ごとの所要時間などのデータを収集・分析しました。
- 分析結果: 特定の時間帯や曜日に来庁者が集中し、待ち時間が長くなっていること、また、手続きの中には書類の不備が多く発生し、対応に時間がかかっているものがあることが分かりました。
- 改善策: 来庁者数の予測に基づいた人員配置の見直し、オンライン申請の推奨、よくある不備をまとめたチェックリストの配布やデジタル化による入力支援などを行いました。
- 効果: 窓口の待ち時間の短縮、職員の残業時間削減、手続きにかかる印刷コスト削減などに貢献しました。
これは、窓口での簡単な記録や、オンライン申請システムのログデータなどを活用することで始められます。
事例3:消耗品購入データの分析による調達コスト削減
庁内で使用する印刷用紙や筆記具などの消耗品の購入データを部署横断的に集約・分析した自治体もあります。
- 分析結果: 同じ種類の消耗品でも、部署によって異なる業者から購入していたり、まとめて購入するよりも頻繁に少量ずつ購入していたりすることが分かりました。また、特定の部署で特定の消耗品の消費量が突出している傾向も見られました。
- 改善策: 消耗品の共同購入や一括購入を推進したり、特定の消耗品の消費が多い部署に削減目標を設定したり、代替品の利用を推奨したりしました。
- 効果: 購入単価の引き下げや購入頻度の減少により、消耗品にかかる年間コストを削減できました。
これは、各部署の会計システムや購入記録を統合して分析することで実現可能です。
限られた予算・人員でデータ活用を始めるためのステップ
これらの事例から分かるように、高度な分析ツールや専門人材がいなくても、身近なデータから行政効率化・コスト削減のヒントを得ることは可能です。以下に、限られた予算・人員でデータ活用を始めるためのステップをご紹介します。
- まずは身近な「課題」と「データ」に目を向ける:
- 自分たちの部署や関連する部署で、どのような業務に時間やコストがかかっているか、非効率だと感じている点は何かをリストアップします。
- その課題に関連するデータが、既に手元にないか探します。(例:窓口の受付記録、施設の利用予約簿、業務日報、公共料金の請求書、アンケート結果など)Excelファイルや紙の台帳でも構いません。
- スモールスタートで試す:
- 全ての業務を一度に分析しようとせず、特定の小さな業務プロセスや、特定の施設など、範囲を絞ってデータ活用を試みます。
- まずは数ヶ月分のデータなど、少ない量から分析を始めます。
- 手持ちのツールを活用する:
- 高価な分析ツールは必要ありません。まずはExcelやGoogle Sheetsなど、普段使い慣れている表計算ソフトで十分です。
- 簡単な集計(合計、平均、最大/最小)やグラフ作成から始め、傾向を掴みます。
- (補足)Excelのピボットテーブル機能などは、データの集計や分析に非常に役立ちます。
- 庁内のデータ連携を意識する:
- 自分の部署だけでは見えない課題が、他の部署のデータと組み合わせることで明らかになることがあります。例えば、住民サービスの利用データと財政データを組み合わせるなどです。部署間でデータの共有や連携について相談してみることも重要です。(個人情報保護などには十分配慮が必要です)
- 外部のリソースも活用する:
- 予算があれば、大学や研究機関との連携、民間のコンサルタントやデータ分析企業の活用も選択肢に入ります。しかし、まずは無償で公開されているオープンデータや、国・県が提供する統計データなども参考にできる場合があります。
まとめ:データ活用の第一歩がコスト削減への道を開く
行政コストの削減は、自治体の持続可能な運営に不可欠な課題です。データ活用は、この課題に対して客観的かつ効果的なアプローチを提供します。
「データ活用」と聞くと難しく考えがちですが、既にある身近なデータから、まずは小さな課題解決のために分析を始めてみることが重要です。Excelなどの familiar なツールを使い、スモールスタートで成功体験を積み重ねることで、庁内全体のデータ活用文化を醸成していくことができます。
ぜひ、身の回りの「もったいない」や「非効率」にデータ活用の視点を加えてみてください。その第一歩が、持続可能で効率的な行政運営への道を開くはずです。